転勤や家族構成の変化など、何らかの事情でマイホーム(居住用財産)を売却しなければならないときがあります。高値で売却できれば問題ありませんが、想定外の低額でしか売却できず、売却損が出てしまうケースも考えられます。
原則として、不動産を売却した際の損失は、他の所得(給与所得や不動産所得など)との損益通算が認められません。しかし、一定の要件を満たすマイホーム(居住用財産)の譲渡損のうち、一定の金額は損益通算をすることができます。
今回は、「居住用財産の譲渡損の損益通算と繰越控除」について見ていきましょう。
譲渡所得とは
マイホーム(居住用財産)を売却した際の譲渡所得はどのように計算すればいいのでしょうか?
購入したときよりも高い値段で売れば、損失は発生しないと思いがちですが、そうではありません。
譲渡所得は、「不動産売却価格-(不動産取得費+譲渡費用)」で計算することができます。不動産取得費は、購入代金や仲介手数料、住宅ローンの利息、購入後のリフォーム費などの合計から所有期間中の減価償却費を差し引いた金額になります。譲渡費用とは、不動産売却を行う際にかかる仲介手数料や売買契約書の印紙税などを含みます。
売却時の価格から購入時の価格、購入時の費用、売却時の費用を差し引くことになるので、購入価格と売却価格が同じであれば、仲介手数料などの費用分がマイナスになってしまいます。
譲渡所得がプラスになった時には、所得税・復興特別所得税・住民税が課税されます。一方、マイナスになった場合は「譲渡損失」が発生したことになり、課税されません。
譲渡損失の損益通算と繰り越し控除
売却時に損失が発生した場合、売却した年のその他の所得(給与所得や事業所得など)と相殺して所得税や住民税を減額することが可能です。これを「損益通算」と呼びます。マイホームを売却した際に発生した売却損を税金で取り戻すことが出来るということです。
さらに、その年の所得から損益通算を行なっても控除しきれなかった譲渡損失があると、翌年以降3年間繰り越し控除できます。この特例を「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」(令和3年12月31日までの譲渡)と言い、主な適用要件は下記の通りです。
・自分が住んでいるマイホームを譲渡すること
・譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超えること
・償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること
・マイホームの譲渡価額が住宅ローンの残高を下回っていること
・繰越控除を適用する年分の合計所得金額が3,000万円(給与所得のみの場合には年収が3,195万円)以下であること
・この譲渡について他の居住用財産の特例の適用を受けていないこと
・一定の特別関係者(親子や夫婦など)への譲渡でないこと
なお、譲渡損失の損益通算限度額は、マイホームの売買契約日の前日における住宅ローンの残高から売却価額を差し引いた残りの金額となります。
詳細は国税庁のHPをご参照ください。
買い替えの損益通算と繰り越し控除
譲渡損失については、マイホームを売却し、次に買い替えをした場合についても損益通算と繰り越し控除の適用を受けることができます。
適用要件は次の通りです。
・自分が住んでいるマイホームを譲渡すること
・譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超えること
・譲渡の年の前年の1月1日から売却の年の翌年12月31日までの間に床面積が50平方メートル以上の家屋を取得すること
・取得した年の翌年12月31日までに居住の用に供すること
・取得した年の12月31日において償還期間10年以上の住宅ローンを有すること
・一定の特別関係者(親子や夫婦など)への譲渡でないこと
この特例は「住宅ローン控除」と併用することが可能です。ただし、譲渡損失の繰越控除で所得がゼロになってしまった年は適用除外となりますのでご注意ください。
例えば給与収入800万円で所得が600万円の人がマイホームを買い替え、1500万円の譲渡損失が発生した場合の損益通算はどうなるでしょうか。
売却した年:所得600万円-譲渡損失1500万円=−900万円(マイナスで課税ゼロ)
2年目:所得600万円-繰り越した譲渡損失900万円=-300万円(まだマイナスで課税ゼロ)
3年目:所得600万円-繰り越した譲渡損失300万円=300万円(プラスになったので課税)
3年目でプラスの所得金額となりましたので、ここから住宅ローン控除が開始となります。対象期間の残存期間のみ利用できる形となり、3年目から10年間(13年間のケースもあり)控除がスタートするわけではないのでご注意ください。
詳細は国税庁のHPをご参照ください。
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